マスコミ新人取材マニュアル

マスコミ新人取材マニュアル「親と上司は選べない」「同業他社との結婚は「できちゃった」結婚で」「聞き込みは顔を見て決めろ」
マスコミ志望者は、まずマスコミで働く人の実態を知るべきだ。
元週刊新潮、毎日新聞、朝日新聞記者阪東恭一著(COPY RIGHT 2006)

もくじ

- はじめに

- その1

- その2

- 出版社編集者(書籍、雑誌、マンガ)編

- 付録 ジャーナリズムに関する本と映画の紹介


◆その2

24 役立つ役所 その1 法務局
 土地や建物の所有者や大きさを知るためには、法務局(登記所ともいう)で調べられる。個人保護法とは関係ない。理由は公正な取引のためにある。土地と建物の両方に登記がある。最近はデジタル化している。一部ではまだ、いくつかの登記を束ねて本の形をしているので、対象者以外のも見ることができる。
 なんのために重要なのかは、取材対象がどれぐらいの土地や建物を持っているのかを知ることができるからだ。
 もっと重要なのは、相手(所有者)が借金がある場合だ。土地や建物を担保に借入れしている場合は登記簿の「乙」欄に記載されている。住宅ローンも含まれるが、実業が銀行から資金を借りている場合も「根抵当」と言われる借入限度を限定した担保もある。
 さらに複数の土地を持っている場合は登記簿の「付票」を取り寄せる。すると銀行から例えば10億円の金を借りる時に、どの土地を全部、担保にしていることが分かる。つまり「付票」から調べたい相手の土地がどこにあるのか一網打尽で調べられる。
 近年では毒カレーの林マスミ?の例である。約100坪の土地の正確な広さや本当の所有者の名前、過去の所有者の名前が分かる。被告の家や土地がどのようにして買われたのか、土地を担保にいくら借りていたのも調べることができる。
 法務局のもう一つは企業の登記だ。社長や取締役がだれで、資本金や会社を設立した年度などが分かる。登記上の本店が、基本的に納税する場所でもある。全国にいくつも「本社」「支社」がある場合かそうである。
 暴力団の関連企業などのやくいん名前を調べることもできる。役員の住所も記載されている。
 地味な仕事で1回で400円前後のお金がかかる。しかも午前9・11時、午後は1・3時までなので、つねに混み合っている。

25 役立つ役所 その2 消費者センター
 これも個人情報保護をたてに正面からは教えてくれない場合が多くなった。しかし、2005年以降、タイヤの脱輪、ソニーのリチウム電池の発火、パロマの湯沸かし器や松下の石油温風機の不備によるCO(二酸化炭素)中毒などPL(製造物責任)法にひっかかる場合や詐欺商法などの苦情の窓口となる。
 消費者センターは市町村レベル、都道府県レベル、国レベル(内閣府、旧経済企画庁管轄の国民生活センター)の3つの段階である。
 こまめに回っていると、役人も「存在価値」をアピールまたは、宣伝できる。もっというと「振り込ませ詐欺」のように、これだけ話題になっていてもひっかかる「市民」がいる。それだけに、マスコミを使った「防犯意識」を広めるためにも重要な役所といえる。
 警察では、セイアン(生活安全)課などが情報を握っているが、事件として「立件」までは教えてくれない場合が大半だ。詐欺などはことさらである。
阪東も朝日新聞記者時代に多摩の消費者センターで松下の洗濯機の脱水機の事故を取材して特ダネ記事にしたことがある。主婦が指2本を失った。止まってない脱水機の中の洗濯物に手を入れたためだ。いまはこの事故を契機に「脱水機が完全に止まるまで手を入れないで下さい」というステッカーが張られるようになった。このステッカーは社団法人日本工業品協会?が定めたものだ。
 記事で世のなかが、少しだが変わることもある例だ。記事として残る新聞社の役割は大きい。
 
26 捜査4課(警察の組織)
 警視庁など大きい警察では刑事部には捜査1〜4課がある。1は殺人強盗などの「強行犯」、2は知能犯や汚職(汚れるはサンズイなので汚職事件はサンズイという)、3は泥棒、4は暴力団がらみ
 青森県警などは1と3合わせて1課、2と4合わせて2課と呼ぶ。また汚職事件(サンズイ)は地元警察では「しがらみ」が多いので課長は警察庁から若い20代後半から30代のキャリア(東大京大卒など、国家公務員・種、旧上級職)が東京から赴任してくるケースが多い。ついでにキャリアは警察でいうと県警の警務部長(ナンバー2)、と本部長(ナンバー1)が占める場合が多い。ちいさな県警(総職員数2000〜3000人)の本部長は40代前半のキャリア組がなる場合が多い。


27 警察の階級
 笑い話のようだが、警察の官舎で子供同士が喧嘩すると親の階級が上の子供が勝つ。
 それぐらい年齢に関係なく階級がすべてである。軍や消防も同様だ。
 漫画の「コチ亀」こと「こちら亀有公園前派出所?」の場合を例に取ると、両津カンキチ?は巡査長で、中川や麗子より階級は1つ上だ。中川や麗子は巡査で一番したの階級だ。大原部長は正確には巡査部長で両津より1つ上の階級、「部長」といっても上場企業の部長とは訳が違う。巡査部長の上は警部補(これは「コチ亀」には登場しない)。その上が警部だ。警察署(所轄しょかつ)で課長は警部の場合が多い。副署長や「コチ亀」の本田署長は警視となる。警視庁など大きな県警での署長の1割から2割はその上の警視正とある。(けいしせい、と呼ぶが、けいしマサと隠語で読んでいることも) 警視正まで来ると高卒のお巡りさんにとっても高嶺の花で1000人に一人という競争率だ。退職金や 天下り先だけでなくOB会も違ってくる。


28 名誉の特進
 死んでから「昇進」する場合もある。名誉の殉職なら2階級特進の上、退職金をあげるのである。
 外務省でもイラクで死亡した奥氏(早稲田卒も)大使の下(たぶん公使)だったがゲリラに殺害され「大使」になった。
 亡くなってから大使になっても仕方ない。阪東はそう思う。しかし遺族にとっては名誉である。お家の名誉という言葉は古風だ。これは江戸以前のの「お家」制度が根本にある。
お家の名誉は個人より優先された。また親戚の失脚は「連帯責任」を取らされることもあった。また家を守るため、婿や嫁を他の家からとる、入り婿、入り嫁を行い「家」を継がせる場合もあった。戦後は民法改正で、法律的には家督相続制度はなくなった。しかしまだ父が死亡した場合は長男に財産を集中させる「家督」は農家などに多く、いまだに行われている地方もある。
 ともかく叙勲(形は天皇陛下からの地位の遠近、じっさいは官僚が政治家や大手企業や業界団体に圧力をかけるため道具になっている)と同じく、名誉や地位や階級は残っている。これらの制度は古くは平安時代から明治維新以降の天皇を頂点とする近代的な国家体制でも受け継がれた。
 ただし、日本では、貴族制度だけは、いまの新憲法で戦後廃止された。
 ついでにいうと、日本は立憲国家で国家君主は天皇、ロシアやフランスみたいに革命で国王や皇帝一家を皆殺しにした場合は共和国で、大統領が君主となり、外国の大使の認証などの「雑務」もする。日本や英国、スウェーデン、オランダ、タイなどの国王が存在するところは大使の認証は君主である国王(天皇)が行う。

29 サツ回りと署回り
 サツ回りとは警察官の自宅を回ること。留守の場合は根気よく家の前に車をおいて待っている。できれば目的の警官の奥さんと親しくなっておく。誕生日にプレゼントをする。
子供の勉強の面倒を見たりする。今はマスコミとの接触は厳しくなった。
 そこで署回りをする。日本で最初にポケベルをもったのは1980年代の警察官と消防とマスコミと暴力団だ。つまり「事件」「事故」「火災」「トラブル」「抗争」はいつ起こるか分からない。そのために警察官と消防とマスコミは宿直勤務をする。地方の支局では携帯のおかげで、しない場合もある。
 ともかく警察と消防はしている。その当直をしている警察署に19〜22時ごろ、回るのである。何か情報がないか? 事件はないか? といって警察署に入っていく。たいていは当直主任という課長級(警部)がいる。それが対応する。しかし、それ以外の署員との雑談も大切だ。当直は各課から出ている。捜査や生活安全、交通、地域(交番を担当)などさまざまで、そこで名前と顔を売っておく。親しくなれば、刑事の場合は自宅の方向を聞いておく。これは新人、とくに女性記者は有利である。すべての警察署が年柄年中忙しい訳ではない。「恋人をくどくように」こまめに回ることが大切だ。
 署回りで親しくなれば、その後の刑事や刑事課長のヤサ(自宅)回りも可能になる。
 警視庁や千葉、神奈川、埼玉などは官舎があるので、ヤサの特定もしやすい。
 署長や副署長は官舎の場合が多い


30 田舎での大きな事件(他社と仲良く2)
 先日、あるOBOGから他社の新人と「地取り取材を、範囲が広いので2人(社)や3人(社)で分担したという話を、それは阪東100本塾のOBOGだったから当然です。時間に追われます。あと北海道のケースではネット心中の車の写真をとるのに
3社で共同してやったというケースがあります。車の場所が山奥で林道も多く、大変なので、分担したそうです。
 たまたま他社の一人が懐中電燈(100円ショップで売ってます)を持っていて(車につんであって)、ほかにも磁石や詳細な地図。はかにもガラス割ったり、シートベルトを切ったりする器具(これはオートバックスで、本来は脱出用)を装備しておくといいでしょう。
 話戻します。その懐中電灯のおかげで50M先の1ヶ月前のネット心中の車を発見して写真が取れたそうです。

季節ものの写真、例えば各社の日光支局(栃木?)では毎年交代で山を登り、ニッコウキスゲや華厳の滝の氷結の写真を1者が撮りにいきます。首都圏や関西ではなかなかうまくは行きませんが、「談合」もたまには必要なのです。
 阪東も毎日新聞記者時代に5人死亡の交通事故があり、他社(市川署に詰めている会社だけ)と組んで副署長を脅して「事故で亡くなった会社の社長に電話させ、社名伏せる代わりにガンクビ(顔)写真を提出するようにさせ、見事に同着ですが、顔写真が。同じ会社仲間で若者で、カーブを曲がりきれず、たまたま違法駐車のトラックに激突、全員即死で社会面に行きました。

31 同業他社との結婚は「できちゃった」結婚で
 はっきり言って、給与の良い方について、「主夫」になる方法もある。
 もしくはできの良い方が世帯主になる。社内なら異動で会社の配慮もあるが、他社との結婚は「閨(ねや)」の中で寝物語で「リーク」されたら大変です。10年前に、関東のある支局で、NHKと共同通信の結婚で、NHKが辞めて、あちこちと夫の転勤につきあったが、「子供ができず」暇なので某ブロック紙に元NHKの妻が転職した。もともと妻の方が優秀だったと、クラブで評判だった。
 不幸にも現在は、夫は東京に妻は、仙台より上で、別居結婚です。結婚するときは、「できちゃった」結婚が理想的です。猛反対していた親も、「孫」の顔をみるとコロッとかわります。たとえ結婚式にでないような頑固な親でも。


32「役人は国家権力ではない、政治家の召使なので、叩きまくる」
かかあや上司にいじめられたら、役人のミスや不良行為(シミ)を捜し出して怒鳴りまくるが記事にはしない。

31うそ電話取材作戦
 企業や役所の広報に電話で取材を申し込むと、つまらないことでも「企画書」(目的、日時、時間、相手、何日の紙面、誌面、番組で使うか、カメラマンは来るのかなど)を出せという場合があります。
 悪質なのは、早稲田大学のように、地方の支局からでも電話取材に応じず、新宿の早稲田大学本部まで「来させる」横柄な「企業」もあります。出張費や時間が無駄です。
 したがって、この場合は嘘(うそ)電話が有効です。
 大抵のことはホームページを見るのが基本ですが、それ以外のことはうそ電話作戦を使います。
 例えば、さっきの早稲田の例なら、早稲田のOBのふりをして、横柄に堂々と、例え嘘でも「卒業生のものだが、●●の件は、どうなんだ」とか「ある新聞でこんなけしからん
記事が出ているがどうなのか」と他紙にぬかれた場合は電話します。「新設の学部はできるのかとか」「付属小学校(早実)の寄付金300万円はいまもいるのか。バカの奥島前総長の責任はどうなっているのか」というようにします。
 「名前を聞かれたら友人の早稲田のOBの名前(学部と卒業年次)を用意しておいておきましょう。早稲田はOBは100万人以上います。パソコンに入っていますが、いちいち電話された時に、確認作業は不可能です。これが日大(推定約150人)慶応(推定約70万人)や東海大、東大、京大、などマンモス大だと有効です。
 また花王に「靴下の匂いを消す洗剤みたいなのはあるか。ニュービーズという洗剤はさっぱり効かない」とクレームをつけるふりをして、お客様への対応センターなどに電話します。この場合は「客」なので「ていねいに答えてくれます」。花王など大手はセンターの対応職員はパソコンで商品の概要は過去のクレームなどの記憶をすべて見ながら答えます。それを利用するのです。「大毎朝新聞だ。答えろ」では広報はかえって警戒して、「事実隠し」に走ります。そのマスコミ対応の時間稼ぎが「企画書」です。
 役所にも「一国民、一市民として」、行政の内容を聞いたりする「権利」をどんどん使いましょう。マスコミを名乗った瞬間に「広報におかけ直し下さい」と言われて終わりです。
 ただし、正式な取材の場合、不祥事のコメントを取る場合は「社名」を名乗りましょう。

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